いつもお世話になっております。孫平です。
前回の続きで、私たちが勝手に思い込んでいる、頼み事に関する誤解についてもう少し見てみたいと思います。
それでは参りましょう。
頼み事をしたら嫌われる?
私たちは頼み事をするときに、「こんなお願いをしたら相手に嫌われるのではないか?迷惑をかけてしまうのではないか?」と考えることが多いと思います。
しかし、前回の記事で出てきた「脳の認知的不協和の解消」から考えると、それは全くの誤解、むしろ相手が自分のことを勝手に好きになってくれるという、とんでもない特典まで付いてくる可能性があるのです。
仕組みはこうです。
①あなたが相手に頼み事をする
②(前回の記事で述べた、頼み事は断りにくい心理が働き)相手はあなたの頼み事を受け入れ、助けてくれる
③相手の脳の中で、「私はあの人のことを特別好いているわけではない」しかし、「好意をもっていない相手を助けるということは普通はない」という矛盾が生じる。
④もう、頼み事を聞いて助けてしまったという事実は変えられない
⑤相手の脳の中で、「私があの人(あなた)を助けたのは、あの人に好意を持っているからだ」と考え、矛盾を解消する
⑥相手の脳の中で、「そう、やっぱり私はあの人(あなた)のことが好きなんだ!だから助けてあげたんだ!」と、確信に至る
⑦あなたは相手に頼み事をして、その相手から勝手に好かれる
ざっくりこんな感じのことが、頼み事をしたときに起きるのです。
この現象をよく表しているものに、1960年代に、心理学者のジョン・ジャッカーとデイビッド・ランディが実施した「ミスター・ボイド実験」というものがあります。
ここでは詳しい内容は説明しませんが、気になる方は調べてみて下さい。
また、この現象におけるその他のポイントとして、
・「自分が相手から嫌われていても、好意をもたれやすくなる」
・「相手が応えた頼み事の要求が大きいほど、自分に好意をもたれやすくなる」
といったことが挙げられます。これも、先ほどの「脳の認知的不協和の解消」による現象です。
人助けをしたときの「良い気分」を過小評価していないか?
誰かを助けると「温かい気持ち」になることを、心理学は明らかにしてきました。
それはみなさんも数多く経験していることと思います。
しかし、その「温かい気持ち」「幸せな気持ち」は、私たちが思っている以上に強力なものなのです。
また人はときに、ネガティブな気分を和らげるために、人助けをすることがあります。
ロバート・チャルディーニらが行った実験によれば、
無害な個人が被害を受けているのを目撃して気分を悪くした被験者は、中立的な気分の人よりも、他者を助けようとする動機を高める。
しかし、プレゼントを貰って気分が良くなった場合は、他者を助けようとする動機が大幅に弱まった。
人は自分の気分を高められないと判断すると、積極的に誰かを助けようとはしなくなる。
罪悪感を感じている人は、そうでない人に比べて、他者を助けようとする動機が高くなる。
ということが明らかになっています。
これは、無意識のレベルで私たちの中で起きているのです。
また、心理学者のエリザベス・ダン、ララ・アクニム、マイケル・ノートンによる研究によれば、
自分のためではなく他者のためにお金を使った人たちの方が幸福度が高い。
そのときの金額の多寡は幸福度に影響していなかった。
ということが分かりました。
ここまで見てきたように、誰かに助けを求めることは、その相手にも多くのメリットを享受する機会を与えることでもあるのです。
つまり、みなさんが相手に助けを求めることは、その相手を幸せにすることでもあるのです。
助けてもらったみなさんはもちろん嬉しいでしょうし、みなさんを助けた相手も幸せになるのです。
これで、相手に助けを求めない理由がなくなりました。
次回からは、具体的な「頼み方」について見ていきたいと思います。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
ハイディ・グラント・ハルバーソン『人に頼む技術』2019年(徳間書店)
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