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「風邪の科学」


 お世話になります。孫平です。



 春になり、感染症も落ち着く季節になりました。



 ところで、なぜ私たちは夏よりも、冬の寒い時期に風邪にかかりやすいのでしょうか。気になったので調べてみました。



 ここから先は、興味のある方だけどうぞ。








寒い季節に風邪をひきやすい理由


 代表的なものを挙げてみます。




①空気の乾燥


 風邪をひいた人は当然ウイルスに感染しているわけですが、その人が咳やくしゃみをすることでウイルスが空気中に飛び散り、周囲の人に感染します。いわゆる飛沫感染です。



 高温多湿である日本の夏は空気中に水蒸気が多いため、咳やくしゃみで飛び散ったウイルスは水蒸気にくっつき、それほど遠くまで飛散することなく地面に落ちます。



 ところが、空気が乾燥している冬は空気中の水蒸気が少ないため、咳やくしゃみで飛び散ったウイルスはより遠くまで飛散し、より長い時間空気中に漂うことになり、その結果、周囲の人に感染する確率が上がります。



 さらに、空気の乾燥によって鼻や喉の粘膜が乾き、異物の侵入を防ぐ働きが低下することも、風邪をひきやすい要因となります。







②ビタミンDの不足


 ビタミンDは、私たちの免疫系の働きを高めてくれる、人体に必須の栄養素です。



 そしてみなさんもご存知の通り、ビタミンDは人が日光に当たることで体内のコレステロールから合成されます。



 もうお分かりの通り、冬は日照時間が短く、寒さから屋内で過ごすことが多くなるため、日光に当たる時間が少なくなり、結果としてビタミンD不足になりやすくなります。



 ビタミンDが不足すれば、当然免疫力も低下するため、風邪もひきやすくなるというわけです。







③密集


 冬の寒い時期、私たちは外で過ごす時間が減り、多くの人が屋内に集まるようになります。



 そのような、人が密集した空間に咳やくしゃみをする人がいれば、周囲の人に感染する確率が高くなるのは当然です。



 また、暖房を使用しているため換気の頻度が減少し、室内の空気が滞りやすいことも風邪をひきやすい要因となります。








④細胞が冷やされるため


 最も風邪をひきおこすウイルスはライノウイルスです。



 1960年代に、このライノウイルスが人間の体温より2〜3℃低い33℃〜34℃で一気に増殖すること、最初に感染する場所が冷却された鼻の粘膜であることが発見されました。



 その理由がなんなのか、研究者たちは60年近くも考え続け、最近になってようやくその謎が解明されてきました。



 私たちの細胞は37℃でも33℃でもウイルスに感染しますが、37℃前後で感染した細胞は、隣接する細胞にすぐさま危険信号を送ります。その信号を受け取ったまだ感染していない細胞たちは、ウイルスを破壊する抗ウイルスタンパク質をつくり出し、感染を最小限に食い止めます。



 しかし33℃で感染した細胞は、隣接する細胞へ危険信号を出す機能が働かず、ライノウイルスがどんどん増殖していきました。



 ちなみに、危険信号を出すことができない細胞の温度が37℃でも33℃でも、ライノウイルスは増殖していきました。



 つまり、ライノウイルスが低温の細胞に感染増殖しやすいのは、低温の細胞が、感染拡大を食い止める危険信号を隣接する細胞に出せなくなることに原因があることが分かったのです。



 そして外気に最も触れるのが鼻腔で、冬はこの鼻腔が冷やされ細胞の温度が下がることが、ライノウイルス増殖の理由であり、冬に風邪をひきやすい理由なのです。



 ちなみに風邪がインフルエンザのように重症化しないのは、ライノウイルスが温度の高い肺では増殖できないからだと言われています。



 また、私たちの約20%は普段からライノウイルスに感染していると言われていますが、通常通り免疫が働いているため発症していないそうです。








風邪(ライノウイルス)にかからないために


 ここまでみてきた理由を踏まえて、私たちが風邪にかからないためにできることをまとめると、ざっくりこんな感じになるでしょう。





①自宅では加湿器を使用して乾燥を防ぐ



②冬でもできるだけ日光を浴びる。それが難しい人や、日本海側や北国に住む人は、ビタミンDのサプリを摂取する。



③人が密集した空間を避ける。人との距離を広げる。それが難しい場合はマスクを付ける。



④換気をして空気を入れ替える。



⑤身体を冷やさないようにする。






 まあ一般的に言われている風邪予防と同じことですね。



 これから暖かくなるにつれて、そこまで風邪を心配する必要はないかもしれませんが、風邪を引きやすい理由を理解していれば対策もとりやすくなりますので、参考にしてみて下さい。






【参考文献】

ジェニファー・アッカーマン 著、鍛原多惠子 訳、『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』早川書房(2014年)





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