いつもお世話になっております、孫平です。
今日は心理会計(メンタルアカウンティング)という、お金にまつわる人間の心理作用についてお話します。
この「心理会計」がどのようなものなのかを知っていれば、ほぼ無意識にしてしまう無駄な出費を抑えることに役立つかもしれません。(知っていても抑えるのが難しいぐらい、強力な心理作用なのですが…。)
お金の価値はコロコロ変わる
心理会計はよく、心の財布と例えられます。
つまり、食費や家賃は「生活費の財布」から、本やお菓子は「嗜好品の財布」から、映画や旅行は「娯楽の財布」から、会社の飲み会は「交際費の財布」からなど、私たちはお金を心の中でいろんな財布に振り分けているのです。
例えば、次のようなことが起こったら、みなさんだったらどうするか考えてみて下さい。
①あなたは今日、あるアーティストのライブに来ました。事前に買っておいた5千円のチケットを取り出そうとしたところ、どこにもありません。どうやら失くしてしまったようです。
さて、あなたはここでもう5千円を払ってチケットを買い直しますか?
②あなたは今日、あるアーティストのライブに来ました。5千円のチケットは会場で買う予定です。支払いをしようと財布の中を確認すると、財布に入れておいた5千円がありません。どうやら失くしてしまったようです。(財布の中にはまだ手持ちがあります。)
さて、あなたはここでもう5千円を払ってチケットを買いますか?
さて、どうでしたでしょうか。細かい設定は違えど、似たような実験は多くの研究者が行っており、結果も概ね共通しています。
結果は、①の場合はチケットを買い直さないと答えた人が多く、②の場合はもう5千円を払ってチケットを買うと答えた人が多かったのです。
経済的に見れば、どちらも最初に5千円を失っていて、さらにチケットを買っても同じように5千円を失うわけなので、損失額は同じです。それなのに、このように正反対の結果が出たのはどうしてなのでしょうか。
ここで先ほどの心理会計が登場するわけです。
①の場合、最初に買っていたチケット代は「娯楽の財布」からの出費です。しかし、もう1枚チケットを買うとなると、その「娯楽の財布」からさらに5千円の出費をする(ように感じる)のです。つまり「娯楽の財布」から1万円も使ってしまうという感覚になるのです。
一方②の場合は、あると思っていたのになかった5千円は「フリーな財布」の中の出来事であって、ここで新たに5千円を払ってチケットを買ったとしても、「娯楽の財布」からの出費は5千円、という感覚になります。
金銭的な価値は全く同じなのに、このような心の中の財布の種類=心理会計によって、そのときの出費への心理的な抵抗に違いが現れるのです。
それはつまり、同じ千円や一万円だったり使う人が同じであっても、そのお金がどの心の財布に入っているかによって、お金の価値は変わるということを意味します。
心理会計の罠にはまらないために
私たちがこの心理会計の罠に最もはまりやすいのは、臨時収入があったときではないでしょうか。
例えば、ラッキーなことに宝くじで10万円当たったとしましょう。私もそうですが多くの人が、ちょっと贅沢に寿司でも食べに行こうとか、ずっと買いたかったブランド品を買おうとか、そんな風にお金を使ってしまうのではないでしょうか。
心理会計で考えると、この10万円は「臨時収入の財布」とか「ボーナスの財布」に入り、毎月の「生活費の財布」とは別物です。お金の価値としては10万円は10万円なのにです。
日々、1円でも安い買い物をしようとスーパーの特売品を目ざとくチェックしているのに、一旦「臨時収入の財布」に入ってしまったら最後、涙ぐましい節約の日々は忘却の彼方、一瞬で10万円はなくなってしまうのです。
私は、贅沢な食事や高額な商品を買うのがダメなことだとは全く思っていませんし、むしろたまにはそうしたことにお金を使って、幸せを感じることは大切だと思っています。
私たちがすべきことは、ただひたすらに節約に努めることではなく、心理会計という人間の心理作用を理解した上で、何にどれだけお金を使っていくかを主体的に決めていくことなのではないかと思います。
決めるのは私たちであって、知らないうちにお金がなくなってたとか、私たちが心理会計の奴隷になってはいけないと思うのです。
自分が納得した上でお金を使えば、あんな無駄な買い物しなければよかった、なんていう後悔も減らせるはずです。
まずは、お金を使うことに悩んでる項目や、高額な出費をする際は、それがどの種類の「心の財布」に入っているかを認識し、一呼吸置きましょう。
そしてそのお金があったら、他にどんなことに使えるだろうかと想像したり、逆にどんな可能性が失われるだろうかと想像しましょう。
この一呼吸によって、無意味な衝動買いをするリスクは大幅に軽減されることと思います。お金がなかなか貯まらないという方は、是非日々の生活の中に取り入れてみて下さい。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
ダニエル・カーネマン(2012)『ファスト&スロー』早川書房
ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー(2018)『アリエリー教授の「行動経済学」入門お金篇』早川書房
マッテオ・モッテルリーニ(2008)『経済は感情で動く』紀伊國屋書店
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